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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
そして幕下の諸将は、境内の末院を宿舎としていた。
藤吉郎は、その一院を出て、久しぶりこの世の美しい星を仰いだ。もう五月になるかと思う。
「生きているな。この体」
と、ぴちぴち意識する。何だか非常にうれしいのである。
夜中だが、信長に眼通りを願った。待っていたようである。すぐ会った。
「藤吉郎、何がうれしいのだ。非常にそちは爽やかそうに、にこにこしておるではないか」
「これが欣しくなくて何といたしましょう」――と、彼は答えた。
「日頃は、この生命など、有るとも持っているとも、ありがたくは覚えませんが、死中から拾ってみると、なんとも、愛しくて、歓ばしくて、生命のほか、何物も要らない気がいたします。――こうして、燭の明りを見られるのも、殿のお顔を仰がれるのも、生きていればこそと、勿体なく、ただありがたく思われまして」
「ううム……そうよのう」
「殿の御心懐は」
「残念でならぬ……」
「まだ、遠征の惨敗を、苦にしておられますか」
「信長、初めて、敗戦の辱と苦い味を知った」
「道理で、すこし茫然とお見うけ申されます。それがしのように、お考えなされませ。どこに、敗北の苦味を嘗めないで、大事をなした者がありましょうや。