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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「まだ何も聞いてはおりませぬ。すぐこれへ伺いましたので」

「久作からは」

「なおさら一言も……」

「では、わしから告げよう。この戦場へ、はるばる、そなたを呼び迎えたは、そなたに、敵方へ使いに立ってもらいたいためじゃ。今――、不破郡松尾山の長亭軒の城に立て籠っておる浅井の臣、樋口三郎兵衛と、お許ら兄妹とは、幼少から親しい間がらと聞いたゆえに」

と、藤吉郎は、於ゆうが戦争の駈引などにはうとい女性であるだけに、分りよく噛みくだいて話した。

この地方に、敵方の城は、要所要所に幾つもあるが、要するに、牙城は長亭軒の一城と見てよい。

その親歯さえ抜けば、後の歯はひとりでにぐらついて来る。

ところが、あれは陥ちない。この兵力の五倍をもって、二十日以上、多大な犠牲を払っても、陥ちるかどうか。

なぜならば、その干城の大事を知って、浅井長政も、逸はやく、鎌刃城にいた樋口三郎兵衛を、長亭軒の城のほうへ移して守らせているからである。

三郎兵衛は、稀に見る智謀の将だ。武勇にかけても鳴っている。その人物は、以前から誼みの深い半兵衛重治が珍重している通りである。

だから、ここにあるただ一つの策は、友の半兵衛からよく利害を説いて、衂らずして彼を降伏させるしかない。