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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

人生の四十。まだ先は長いとしていない。

そのみじかい間に、かれの抱負は途方もなく大きかった。無限な理想があった。それに向い、その障難を克服してゆく、一日一日のたまらない愉快な日があった。――しかるに人間の天寿がある。かれは惜しまずにいられないのである。

「於蘭、つづみを打て」

きょうも彼は舞わんとしていた。伊勢の使者を饗応して、使者が帰っても、まだ興じて、ひとり杯をあげていた昼だった。

蘭丸は、つぎへ退って、つづみを抱いて来たが、信長のまえに寄って、

「ただ今、横山の木下藤吉郎どのが、御着城になられましたが」

と、取次のことばを、また取次いだ。

ひと頃、浅井も朝倉も、三方ヶ原の結果によっては、大いに為すあらんとしていたらしく、しきりに蠢動しかけていたが、信玄が退いてからは、ぴたと自領の限界にすくみこんで、国境の保守に汲々としていた。

――まず、このぶんでは。

と、当座の平穏を見こして、藤吉郎はひそかに横山城を出、畿内から京地をすこしばかり巡遊していた。

どこの城将でも、またいかに戦乱でも、栄螺のように、そうのべつ城のなかにとじ籠っているわけもない。