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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

およそ時代のさかいに、過去のもの将来のものと、二つに分け去られる大濤にのって、あぷあぷ溺れてゆくものは、ほとんどが、旧態の威力や、その遺物の未練に、世の推移をケタ違いに見ちがえておる人々です。――その大濤からちょっと上がって、平然と見ていれば分りきっていることでも、将軍職とか、一国とか、小城や小財力など持っていると、それが重荷で、時勢の濤から這いあがってみることもできません。思えば、あわれなもので」

「さしずめ、うごきは、そんな程度かな」

「いや、大変事があります。――申しおくれましたが……」

「なに、大変事が」

「さればです。……これはまだ世間に洩れておりませんが、例の手飼の乱波、渡辺天蔵の早耳ですから、おそらく信をおいてよいかと思いますが」

「何事か……?」

「惜しむべし、甲州の巨星は遂に隕ちたようです」

「……え。信玄がか?」

「この二月、刑部から三州へ攻めに出て、野田城をとりつめておるうち、一夜、鉄砲で撃たれたと聞きました」

「……?」

しばらくは、ひとみを澄ましている信長であった。藤吉郎の唇もとを見つめて。

信玄の死。

もしそれが事実ならば、たちまち天下の象が変る。