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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

すると、城門越しに、矢倉の上から、敵の顔が見えて、覗き下ろしながら云った。

「御無用ッ。御無用。――何度参られても、御城代のお答えは、同じものでござる。お帰んなさい」

「あいや」

半兵衛は振り仰いで、

「いつもは、木下家の家臣としてでござったが、こよいは、一半兵衛重治として、妹のゆうと共に、月を賞でつつ、浮々と、お立ち寄り申したのでござる。――それがしの知る樋口三郎兵衛どのは、武勇の質であるばかりでなく、風雅も解し、あわれも知る優しい武士と承知しているが、さては早、木下勢に取り詰められ、月を見る心のゆとりも、友と語らう心情も、失われてしまわれたか。……さるにては是非もないが」

独り嘆くようにいっていると、

「だまれッ」

と、狭間でべつな声がした。

「おお、三郎兵衛殿」

仰ぐと、上の顔は、

「やよ、半兵衛殿。いくら訪ねて来ても、むだであるぞ。会う要はない。帰れッ……」

「――おじ様ッ、おじ様。ゆうでございまする」

「ヤ、ゆう殿。女の身で、何しにこの戦場へ」

「余りに、兄の心の可憐しさに……。そして、おじ様も、いつお討死か知れぬと聞き、お別れに参りました」

ここは、半兵衛兄妹の生地、菩提山の城からも程近い。