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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

よく云いふくめておきましたから」

「自慢はよせ」

「おそれ入りました。つい」

「そんなどころでない。――甲山の猛虎が斃れたからは、猶予もならぬ。世上に信玄の死が知れわたらぬうちこそじゃ。――藤吉郎、そちはこよいのうち発足して、横山へいそいで帰れ」

「もとよりすぐ、そのつもりでしたから、ゆうも長亭軒のほうへ戻しましたので」

「余事を申すな。……わしも眠るいとまはあるまい。夜の明け次第に出陣する」

信長の思うところは、そのまま、藤吉郎の考えていることだった。

平常に窺っていた機会――かねての宿題を仕果す時は今だという直感である。

その宿題とは。

いうまでもなく、旧態の公方家という厄介ものを始末するにある。室町幕府なる複雑怪奇な存在によって起るさまざまな煩いを、一挙に解決して、中央の明朗化をはかるにある。

いうまでもなく、それに代らんとする新時代の登場者として、信長の進出は急速に実現され、翌三月二十二日、勃然とうごいて、大軍いちどに岐阜城から雷発した。

湖岸まですすんで、軍はふたつに分れた。

右するは信長を中心として、丹羽長秀の迎えと合し、大船数隻にのって、一路湖上を西へ向ってゆくもの。