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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「どうなさる思し召しですか」

「いまさらどうもこうもない。このたびはゆるさん。断乎、世に代って、彼に最期をつきつけるまでのこと」

「――が、将軍職です、あいての公方どのは」

「知れきったことを」

「なお、ここでもうひとつ、御分別の余地がありませぬかな?」

「ない。――もはや断じてない」

信長の声と、藤吉郎の声がもれる。

外はきょうも雨に暮れかけているうす暗い寺院の一室だった。まだ七月の残暑にこの長雨なので、金泥の仏体にも墨絵の襖絵にもカビが生えそうな蒸しあつさである。

「御分別をと願うのは、御短慮なりとお諫め申す次第ではありませぬ。――将軍の職は、朝廷の御任命によるもの、その官職にたいし、畏れあるやに思われるのです。それと、世上の反信長党に、将軍弑逆という絶好な旗じるしを与え、正義を唱えさすなども、下策でないかと考えられますが」

「……ム。それもあるな」

「さいわいなことに、義昭将軍はあの柔弱ですから、もはやのがれ難い窮地とわかりきっていながら、まだ自刃もせず決戦にも出ず、この霖雨に濠の水嵩がふえたのを、いささかの恃みに、館門をとじております」

「――で、どうせいというのか。