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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
と、唾しながら、彼方の沢を、信長に従いて縫ってゆく藤吉郎の影を見送っていた。
「われわれに、何の目的も告げず……。諮らいもせずに」
「第一、危険至極ではないか。いくら白昼でも、ひろい山地には、敵の忍びもいる。もし遠くから狙撃でもされたらどうするか」
「殿も殿。ちと……」
「いや。木下がいかん。多勢してお附添いしては、眼につくなどと、殿に阿って」
勝家や信盛以外の幕将たちも、決して快くなかった。
いずれどこか、山の高所へお供して、藤吉郎が例の智弁で、なにか作戦上の献策でもするつもりだろうとは察しられたが――そもそもそのこと自体が不快でならなかった。その不快は、
「われわれ帷幕の謀将を、無視しておる」
と、いうところにあるらしい。
そういう人間の機微は分らないのか、無関心なのか、藤吉郎はまるで遊山にでもゆくような笑い声を、時々、山あいの静寂に発しながら、信長の先頭に立ってゆく。
彼の郎党と信長の従者と、あわせてわずか二、三十人の小隊でしかない。
「汗ばみますな、山を登ると。――殿、お手を引きましょうか」
「たわけたことを」
「もうわずかです」
「登り足らんな。もっと高い山はないか」