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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「夫人。……怖ろしかったか。夕方の銃音は」

お市の方は、子たちに囲まれながら、白い顔を横にふった。

「いいえ……。ここにおりますからにはなにも」

「万寿も、茶々も、泣き怯えはしなかったか」

「お賞めくださいませ。みなおとなでございました」

「……そうか」

強いて笑顔を見せて、

「安心せい。執こく奇襲して来た敵も城中からのつるべ撃ちに麓のほうへ潰走した。……たとえこの後、幾十日、いや幾百日、織田の大軍が襲せようとも、屈する長政ではない。浅井一族ではない! ……。信長ごときに」

唾するように罵ったが、急に口をつぐんだ。

短檠のあかりに反いて、お市の方が、ふところの乳のみへ顔を埋めたからである。

――信長の妹!

長政の感情が揺れた。どこやら信長に似ている面ざし、肌目のよい頸から横顔の面長な線も、織田家の血液にある特質だった。

「夫人。泣いておるのか」

「いえ、泣いてなど、おりませぬ。……乳の出ぬせいか、姫が焦れては、時々、乳くびを噛みますので」

「乳が出ない? ……」

「ええ。この頃になって」

「ひと知れず、悲嘆を抱いておるせいだ。そなたの痩せが目だって来た。――そなたは母だぞ。