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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
いま世の裏を教えるのじゃ。悲しまず、疑わず、落着いて聞け」
いまにもわっと泣き伏しそうな彼女の面を見つめながら、長政はそう宥めて、
「信長が、そなたを、この長政に嫁がせたのは政略以外のなにものでもない。読めていたのじゃ、初めから信長の心はの」
と、語を切ってすぐ、
「だが――それと知りつつ、わしとそなたのあいだには、もう何ものも断てぬ愛が生じた。いつか四人の子が生れた。ここに至って、そなたはもう信長の妹ではない。長政の妻だ、長政の子の母だ。……敵の信長に、なみだをもつことは許さん。なぜ、そのように痩せるか、子にあたえる乳を渇らすか」
今になってみると、あらゆる運命の結果は「政略」という呪符から始まっている。
政略の花嫁――お市の方を娶った初めから、長政は同時に信長をも、
政略に富む男。
としか見られなかった。
政略も、もちろんあった。しかし信長は、心から妹聟の長政を愛した。初めから愛していた。
長政は、弱冠の十六歳に、もう将として陣頭に立ち、度々、南近江の六角承禎を破ってその領土を拡張し、信長がこの地方に驥足をのばしてきた頃には、浅井家の領土は、愛知川を境とするほど、目ざましい進出を遂げていた時だった。