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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

そして万寿は同役の小川伝四郎がしかと背に結いつけて立ったので、木下藤吉郎も、上の姫の茶々に背をむけて、

「いざ、わたくしへ」

と、すすめたが、茶々はいやがって、どうしても母のお市の方のそばを離れないのであった。

お市の方も、離しともないように、それを抱えて、うろうろしていた。藤吉郎は、ふたりをもぎ離して、

「お怪我でもあってはなりません。たのむぞと、それがしへ仰せあった長政どののおことばにたいしても。……いざ、わたくしの背へ、しっかりと」

やさしく宥ってなどいられなかった。彼のことばは丁寧でも、彼の語気は怖かった。お市の方は、茶々を抱いて、彼の背に託した。

「各※(二の字点、1-2-22)、お支度はよいか。かならずこの木下のそばを離れぬようにして下さい。お市さま、お手を……」

藤吉郎は、背に茶々を負い、片手を出して、お市の方の手を引いて、まっ先にそこから走り出した。

お市の方も、転ばぬばかりに、つづいて出た。

けれど、藤吉郎に曳かれた手は、すぐ、無言のうちに、もぎ離していた。

そして、彼女は母らしく、あとやさきの子達に心をひかれながら、修羅のなかを、半ば、狂気したように急いでいた。