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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
信長は黙然、その子たちを、ひとりひとり眼に迎えていた。しかし何の感情も彼の面にはまだうごき出さなかった。
――すこしとだえて、二十歩ほど間をおいてから、柴田勝家がのぼって来た。勝家の鎧の肩に、白い手が懸っていた。お市の方の手であった。
彼女は、半ば喪心していた。
敵将の夫人とはいえ、主君のお妹なので、郎党の手をかりては非礼にあたる――と、勝家は敢えて周囲に断って、彼女の腕をわが肩にまわし、一歩一歩もいたわりながら、いちばん最後に登って来たのであった。
「御陣所です。……お市さま。御兄君は、もう眼のまえにおいで遊ばしますぞ」
勝家は、すぐ君前まであるいて来て、そっと彼女の腕を、肩からはずした。
意識が回ると、お市はそのまま嗚咽しつづけた。
女性の泣きぬく声は、一瞬、戦陣の物音も奪ってしまった。あたりの諸将も、腸をかきられた。――が、信長のみは、どうしたのか急に苦りきっている。
あれほど愛して、実に、たった今し方までも、案じぬいていた妹であるのに――と、諸将は、彼が狂喜して、お市どのを迎えてやらないのが、不審でならなかった。
(何が御気色を損ねたか?)