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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

あげる諸声のうちにこもっている。

「この辺でお待ち申すのか」

秀吉は促されて駒を降りた。松並木の見通せる城下口の道の辺である。そこに仮の休み茶屋が設けられていた。

「まだお見えなさらぬか」

彼はそこに憩いながら床几に腰をすえているあいだも、いく度となく軒先へ出ては、並木道を眺めやっていた。

やがて午近く――彼方から一列の人馬や駕籠が見えて来た。陽は急に輝かしく、蝶の影のほか舞うものは塵もなかった。

「母上だな。母者人だな。……あの、前に参るお駕籠が」

伸びあがりつつ秀吉は待ちもうける。左右の家臣に何かいっている顔つきなど、まるで他愛ない容子だった。でも慎んでいるのか、寧子のことはそう口に出さなかった。

「――大儀ッ、大儀」

彼が大声を発しながら足を前に踏み出したときは、行列は仮の茶屋のまえに停まり、先駆の蜂須賀彦右衛門が駒を降りて、秀吉のほうへ一礼をしていた。

その彦右衛門以下、大勢の供の者に、秀吉は大声で、道中の労をねぎらったのである。そして自分はすぐ、二つの塗駕籠の側へすすみ、

「寧子、元気か」

と、まず妻へよびかけ、彼女のニコとほほ笑む顔を、久しぶりに一目見ると、すぐ老母の駕籠わきへ寄って、ひざまずいていた。