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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

税を税とは思わなかった。自分たちの安住楽業のためとして、一度の酒を我慢すれば、一尺の国境を守る矢弾になることを、教えられずとも知っていた。

弘治三年から永禄元年、二年――と領内の治績はそういうふうに良くなって来た。事実は、城内の藩庫も、軍費に追われて枯渇し、家中の侍たちの生活も、信長自身の朝夕の代も、切詰めぬいてもまだ窮乏を告げて、

(このままでは、戦いに勝っても、遂には御財政のほうで……)

と、勘定方や、金奉行の者たちが、ひそひそと額を寄せ合って、憂えている状態であったが、信長は、

「祭は、まだかの。――この月は城下の日吉祭であろうが」

などといっていた。

「前の月には、西美濃の津島祭で堀田道空が館まで、祭見に参って、儂も忍びすがたで、踊りぬいたが、踊りはよいもの、日吉祭が待ち遠いのう」

いつも鹿爪らしい顔している柴田修理(権六勝家)にもいうし、生真面目な森三左衛門や加藤図書などの顔見た折もいった。

しかし、この人々には、余りに財政や国境の苦戦が分りすぎているので、その憂国心の余りに、

(――さればで)

とか。

(――御意で)

とか、極めてお座なりの、それも苦々しい返辞しか出なかった。