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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

忙しげに腹帯締めて、起ち上がると、沢から攀じ登って来た顔と、灌木の中からふいに起った彼の顔とが、云い合わせたように双方から見合った。

「やあ。木下」

「おっ? 犬千代か」

「どうした」

「おぬしこそどうした」

「どうもしない。御勘気をうけて以来、牢人して遊んでいたが、殿お討死を覚悟の御出陣と見て、お供に馳せ参じて来ただけのこと」

「そうか、よく来た」

藤吉郎は、眼を熱くしながら、相手の側へ寄って手をのばした。それは旧友前田犬千代。握りあう手と手の裡に、二人は万感をこめていた。

平常かかる折もと、心がけていたのであろう。

犬千代の鎧は華やかだった。小貫から縅まで新しいので、燦爛と眼を射る。

そして肩には、梅鉢の紋打った旗さし物を翳しているのだった。

「よい男振り――」

藤吉郎すら眺めた。

ふと、後に残して来た寧子を想い、彼を考え、そして自分の身に帰って、

「以来、どこにお在でたか」

「佐々殿の舎弟、内蔵助成政どのの好意で、成政どのの乳人の田舎で、時節を待っておった」

「御勘気をうけて、追放されても、他家へ随身の心も抱かずに」

「もとより二心はない。たとえ御追放はうけても、殿の御折檻、この犬千代を真実、人間にして下さろう思し召と思えばむしろありがとうて」