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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
にたたえた緑の泡の湯加減から始まるといってよいほど、これは遊戯ではなく、生活の中にはいっているものであった。
「めっきり、庭草が露ぽくなったのう。菊のつぼみは、まだ固いが」
ぬれ縁から、十坪ばかりの囲いをながめて、又右衛門は、つぶやいていた。
「…………」
返辞のないのは、炉の前に、寧子の手が折ふし茶柄杓にかかっていたからである。沸きたぎる釜の湯から酌み出されたそれが、茶わんのうちへ、とうとうと、泉の口でも落したように、部屋の寂寞を快くやぶって注がれると、彼女は、にこと横を向いて、
「いいえもう、表の坪の菊は、二、三輪ほど、よい香を放っておりまする」
「そうか、咲いたか。……今朝も箒を持って掃いたに、気がつかなんだ。花も、武骨者の軒に咲いては、情なしよと、無情かろうな」
「…………」
茶筅のかろい迅い音が、寧子の指さきからササササと掻き立てられている。――が、なぜなのか、又右衛門のことばと共に、彼女の顔には、さっと紅い羞恥らいがさして見えた。
そんなことに、気のつく又右衛門ではない。茶わんを寄せる。押しいただく、飲む――。アアいい朝だといった顔つきである。