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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「進退きわまったか」

と何度も、観念しかけた。

飛騨川原で、落人狩の敵に発見されて、追われた時は、

「もうだめだ! ……。十兵衛どの、刺し交えて死のう」

と、年下の光春は――まだ埋める場所もなく手に抱き歩いていた父の首級を――そこへおいて云った。

光秀は、首を振った。

「ばかなッ。……ここで刺し交えて死ぬくらいなら祖先の地で死ぬ。こうなったからには、草の根を喰っても生きるのだ」

彼の置いた首級を、今度は、光秀がかかえて走った。

まったく、道もない山を、一夜中西へ西へよじ歩いた。

暁方、一つの道へ出た。

美濃から越前へ出る大日越の嶮路であった。

ここは旅人の往来も稀だし、斎藤一族の勢力にも遠かった。小鳥を落して、羽をむしって生肉を喰らい、山芹や芋の根も、生のまま噛んで歩いた。

こーん。こーん……。と、斧の木魂が檜林の奥から静かにひびいていた。光秀は、従兄弟の手に、旗でくるんだ叔父の首級をあずけて、

「ここで待っておれ」

と、何処へか立ち去った。

しばらくすると、光秀は、手に一挺の鍬と、それから雑人の着る着物や山袴など、一抱えもかかえて、檜林の奥からもどって来た。