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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
「今は、泰平の世か、乱世か。これの分らぬ奴は馬鹿である。しかも当、清洲のお城は、四隣みな敵のなかに在る。東に今川義元。武田信玄。北に朝倉義景、斎藤義龍、西に佐々木、浅井。南に三河の松平と――。山ひとえ、川一すじの隣はすべて敵ばかりだ」
気をのまれた形である。彼の声が自信に充ち、また、一個人の感情をいっているのでないから、その大声に気を奪われて、みな思わず聞いていた。
「――そういう状態の中にあってだ。暴風雨がふけば、すぐ壊れるような土塀を、お城の鉄壁とも恃んで、御家中はみな、非常の心構えを弛めずに、四隣を睥睨しておるのだ。……然るに、これぱしの工事に、二十日もかかって、まだのめのめと、悠長な日を費やしておるとは、もってのほかな怠慢。もしこの間隙に乗じて、一夜に襲せて来る敵があったらどうするか」
雄弁は彼の特徴である。ただその持前を余り出しすぎると、饒舌家といわれたり、法螺ふきと思われたり、またか、と人に厭われたりするので、平常は慎んで、なるべく寡黙を守っているのであった。
けれどまた、いう時にはいわなければいけない、とも信じられるので、彼は今、その得意な舌の限り弁じ立てて、周りの者を、聴従させずに措かなかった。