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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

に屈せずにいられるのは、遠く、稲葉山の居城から、斎藤道三秀龍というものの睨みがきいているお蔭でもあった。

地の理を隔てながら、どうして蜂須賀党と、道三秀龍とが、そんな条約の下に結ばれていたか――ということについては、ひとつの話が聞えている。

それは、小六の先代、蔵人正利が頭目に立っていた時代のことであるが――

或る夜。

蜂須賀家の門前に、行仆れていた病人がある。武者修行ていの侍だった。正利が憐んでやしきへ引き入れ、医療を尽して恢復を見た後、路銀まで与えて立たせてやった。

(……御恩は忘れおかぬ)

窶れた武者修行は云った。そして別れて立つ日にもまた、

(いつか、自分が志を得た後には、消息いたして、今日の御芳志にきっと酬いる)

と、誓った。

その時、云い残した名は、松波荘九郎と聞いていたが、やがて年経てから、その荘九郎からよこした書簡には、斎藤山城守秀龍としてあった。

(あの人が)

と、後では驚いたことだった。

そういう旧縁から、小六の代になっても、秀龍との盟は、依然結ばれていたのである。

その秀龍からの密使!

何事かと、小六がすぐ立って行ったのは当然だった。