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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
が、彼には、そう単純になれないのだ。その野武士の家の台所で、冷飯を喰べても、自分の身は、珠とも思っているのである。これから世に出す身を、そうぞんざいに分別はできなかった。
「――で、七内様は、何しに来てるんですか」
「指図役だ。何しろ三、四十人もちりぢりばらばら入り込んでいるから、誰か締めくくりをつける者がいなくてはならないからな」
「なるほど」
「もう、あらまし分ったろう」
「分りました。――だが、もう一つ分らないのは、てまえ自身ですが」
「ム。お前か」
「わたしは一体、何をする役目なんでしょ。七内様からは、流言を放てとも、何を探れとも、吩咐かっておりませんが」
「多分、汝は、迅こくて小粒だから、大風の晩に、火でも放ける役の方に置いてあるのだろう」
「ははあ。火放けですか」
「何しろ、そういう密命をもって、この城下へ来ているわけだから、寸分も油断はならぬ。弓の直し屋をして歩くにも、針売りをして歩くにも、よくよく気をつけて、言葉の端にも、気どられぬことだぞ」
「知れたらすぐ捕まりますか」
「あたりまえだ。道三様の方では知っていることだが、もし義龍の方の侍にでも、嗅ぎつけられたら、すぐ血祭だ。