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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
いや捕まったら汝だけですむことか、俺たちにとっても、大事だぞ」
何も知らぬのは不愍と思って、こう打ち明けはしたものの、彦十は、もし、猿の口から秘密が漏れたら――と、急に不安を覚えてきたらしいのである。
日吉は、彼の顔色を察して、
「だいじょうぶです。旅には馴れていますから」
「抜かりはあるまいが」
彦十はなお、だめを押して、
「敵地だからな。ここは」
「よくわかりました」
「どれ……。そういっている間にも、人目に怪しまれるといかねえ」
腰が冷えてきたと見え、彦十は立ち上がって、二、三度腰ぼねを叩きながら、
「猿、……汝の泊っている宿屋はどこだ」
「七内様がいる旅籠の、ちょうど裏にあたる横丁の木賃で」
「そうか。じゃあそのうち、おれも一晩泊りに行くが、合宿の人間には、特に気をくばれよ」
破れ弓を担って、弓直しの仁田彦十は、その一言を合言葉に、町の方へ立ち去った。
日吉は、残っていた。
「…………」
そしてなお、拝殿の横に腰かけたまま、ぽかんと、銀杏林の梢越しに、城の白壁を、遠くながめていた。
今。――彦十の口から、この国土の主たる斎藤家の内争と、その悪行ぶりを聞いてから、ふたたび、城を仰ぎ見た時、その鉄壁も、嶮崖の要害も、日吉の眼には、何の権威にも見えなかった。