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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

湯漬を喰べ終ると、

「いや、長坐長坐、陽の入りまでには、飛騨川越えて、こよいの宿舎まで退りとうござる。――どれ、お暇を」

「帰らるるか」

道三は、一緒に立って、

「聟どのの帰館とある、名残惜しい、そこまで、見送り申そうず」

彼もまた、その日のうち、美濃の城地へ、帰るのだった。

三間柄の朱槍の林は、夕陽を背にして、東へと勢揃いして帰った。美濃衆の槍隊は、それに比して、みな短く、何となく気勢も昂らなかった。

「ああ、長生きもしとうない。――今に見よ。この道三が子らも、あのたわけ殿の門前に、駒を繋いで、生を乞う日がやがて来よう。ぜひもない……ぜひもない儀だ」

その途中、道三秀龍は、駕籠のなかで口惜しげに、はらはらと落涙しながら、近侍の者にいったということであった。

出仕

どうん。どうん――

武者太鼓が鳴る。法螺の音が曠野をわたる。

しぶきを上げて、庄内川に泳いでいた者、または野を駈けていた騎馬の者や、竹槍調練をしていた歩卒など、

「御帰城だ」

「引揚げ――」

と、一斉に、河原の仮屋を中心に馳せ集まって、またたく間に、三列四列、横隊になった軍馬が粛として、主君のすがたが鞍に乗るのを待っていた。