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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

「心得てござります。……ただ今」

と、春日丹後は、座をすべって行った。

はてな?

彼は、道三の眼じらせが、何を意味したのか、ちょっと肚を酌みかねていたが、最初の気まずい主君の顔が、途中から晴々して、むしろ信長の機嫌をとる態度に変っていたので、さては、一度粗末でかまわぬと吩咐けた膳部を鄭重にせいと、云い直したのであろうと、その通り心を配って出してみると、道三は満足の様子に見えたので、心のうちでほっとしていた。

舅の道三と、聟の信長と。

ふたりの間に杯事があって、はなしはなお、気が楽になってきた。

「そうそう」

信長は、思い出したように、突然云いだした。

「山城どの。いや舅どの。時にきょうは、これへ参る途中、珍かな者に出会うてござる」

「ほ。どのような?」

「されば、舅殿と瓜二つの老いぼれが、民家の破れ窓より、信長が行列を、覗き見しておった。――初対面の舅殿なれど、初の御見とは思えぬほど、はてさて、最前の老いぼれはよう似かようてござった」

ははははと、その唇を、信長は半開きの扇子で隠した。

道三は、苦汁をなめたように、黙ってしまった。堀田道空も、春日丹後も、肌着に汗をにじませていた。