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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
と、訊ねた。
家臣たちはほっと気を安めた。
五郎左は、微笑の顔を、すこし上げて、
「お目にとまりましたか。実はてまえも、いささか誇りといたす愛馬で、南部の馬商人が、京の貴人へ、高値に売るとて、都へ曳いて上るのを、強って所望いたしたものにございまする。――が、値ほどな金子を持ち合わぬ身、よんどころなく、父より貰いおきました『野分』と銘のある家宝の茶を売り払い、それにて求めましたので、鹿毛の名もそのまま、野分と名づけて飼い馴れておりまする」
「ふむ……。そうか。いや道理で、近ごろ優れた名馬とわしも見た。五郎左、あの野分、信長が所望じゃ。信長にくれい」
「は……」
「よかろう。値はいくらでも取らすであろう。信長が貰うておくぞ」
「……いや。恐れながら」
「なんじゃ」
「お断りいたしまする」
「いけないのか」
「はい」
「なぜじゃ。そちはまた、よい駒をさがせばよかろう」
「よい友は求め難いように、よい駒も、そうあるものではございませぬ」
「だから信長に譲れというのじゃ。信長とても、乗りつぶれぬ程な逸駿を、心がけていた折じゃ。強って望む」
「強ってお断りいたしまする。――何となれば、てまえの愛馬は、ただてまえの自慢や遊び事の備えではございませぬ。