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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

年のせいじゃろ、時折、世のさびしみを、思うようになった」

「では、べつに何ぞ、急な御用というわけでも」

「そんなわけではない。久しぶりに、夕飯なと共にして、鬱でも語ろうと思うたまでのことよ。はははは。まあ、寛げ」

平常と、変りはなかった。

外は、霰でもこぼれて来たのか、廂にたばしる音が聞え、燭も、襖も、しんしんと冷えていた。

しかし、睦じい父子の酒盛は、やがてその寒気も忘れさせていた。父が余りよい機嫌なので、五郎左衛門は、主君の御不興をうけたことについて父へ詫びようと思いつつ云い出す折が見つからなかった。

そのうちに、膳も退げ、席をも改めて、中務は好きな薄茶を一ぷく命じて、気軽に飲んでいたが、ふと、掌にのせている茶から思い出したように、

「五郎左、わしがそちへ譲った家宝の野分の茶※(「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1-88-72)を、そちは人へ手放したときいたが、左様か」

と、訊ねた。五郎左は、ありのまま、

「はい。家宝の名器と伺っておりましたが、欲しい馬がございましたので、茶を売り払って、馬を求めました」

と答えた。すると、中務は、

「そうか。よかろう。