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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
その心がけがあれば、わしが亡い後も、御奉公向に心配はない。よく売り払った」
叱言かと覚悟していれば、かえってそれを、欣んでくれる父であった。
「――だがの、五郎左」
中務は、賞めておいて、屹と改まった。
「茶を売って、名馬を購う、そちの心がけは、大いによいが、聞けば、馬場において、殿の卯月を追い抜き、君公から後に、そちの鹿毛をくれいと、お望み遊ばしたものを、そちは、お断りしたというではないか」
「そのため、実は、御不興をうけまして、父上にも、私のため、とんだ御迷惑をかけ、何とも」
「これ、待て」
「はッ」
「父のことなど、さておいてじゃ。なぜ君公の御所望に対して、物惜しみいたしたか」
「…………」
「いやしい奴め」
「……父上」
「なんじゃ」
「五郎左を、左様に御覧じなされますか。心外でござりまする」
「ではなぜ、折角、欲しいとお望みならば、信長公に差し上げてしまわぬか」
「生命をすら――君公のお望みとあらば、いつなりと、差し出す覚悟をしておる侍の身、何で物惜しみなど仕りましょう。――それに名馬を持つのは、私事の道楽ではございませぬ。一朝の場合、戦場で御奉公を尽そうためにござります」