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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「すこし模様が悪いから静かにしていろ。そして、てめえたちはかたまっていねえで、そこらへ影をかくしていたがいいぞ」
さては――と疑いの怯みを衝かれて、手下たちは、さっと群れを解き、草むらや木蔭や、思い思いの闇をさがして、身を潜めてしまった。
日吉は、渡辺天蔵から吩咐けられた品を、家の中から持ち出して来るために、元の下僕部屋の口から、そうっと、母屋のほうへはいって行った。
見ると、いつも夜半はついていない筈の主人の居間に、灯がさしていた。
「旦那さま」
日吉は、板縁に畏って、声をかけた。――返辞はなかったが、主人の捨次郎も、御寮人も、そこに起きて坐っている気配がする。
「もし、御寮人さま」
もいちどいうと、
「……誰?」
と、御寮人の声である。――明らかに顫えをおびている。さっきからの微かな物音や人声に、主人か妻女かが、眼をさまして、一方をゆり起し、土匪の襲来を覚って、観念の眼をふさいでいたところにちがいない。
そこへ、日吉が障子をあけてはいって来たので、主人の捨次郎も御寮人も、眼をみはってしまった。――恐怖のさめきらない不安の顔いろのうちに、唖然と、彼を見まもる眼を大きくすえていた。