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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「野武士がやって参りましたよ――多勢して」
日吉は、告げた。
主人夫婦は、ごくりと唾をのんだだけで、何もいわない。――いや云い得ないほど白々と歯の根を噛んだ顔しているのである。
「――踏みこまれたら、それこそ大変です。旦那さまも、御寮人さまも、縛り上げられてしまいましょう。五人や六人の人死や怪我人は、きっとできるにきまっています。……ですから、私が計りごとを考え、野武士の頭を、外に待たせておきました」
賊の渡辺天蔵にいった通りのことを、日吉は、主人夫婦へそのまま告げて、
「――ですから、旦那さま、野武士の頭が、欲しいっていう物を、出して遣ってしまうとようございますよ。私が持って行って、渡してやれば、それで帰ってしまいますから」
と、いった。
――ややあって。
「日吉。いったい、野武士の頭は、何をよこせというのだね」
捨次郎が口をひらいた。
日吉は答えて、
「はい。賊の渡辺天蔵が目をつけて来たのは、御当家で御秘蔵の――赤絵の水挿だといっていました」
「えっ。赤絵の水挿を」
「それを渡せば、帰ってやるといっています。こんな安いことはございませんから、渡してやろうじゃございませんか。