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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页

青空文庫

横山はその膳を吉平の前へ置いた。

「これは忝けない、ではいただきます」

吉平は茶碗を持ってその水漬の飯を喫いはじめた。そして、それがなくなってしまった。

「五右衛門、おかわりをいたせ」

横山が云うと五右衛門は恐る恐る手をだした。吉平はその手に空いた茶碗を渡した。五右衛門は飯を盛りに往って直ぐ持って来た。

「さあ、どうぞ」

五右衛門は声を慄わしていた。吉平はそれを受けて静に喫った。

「五右衛門、おかわりをいたせ」

吉平は茶碗を下に置いた。

「もう、これでたくさんでございます、では、これでお暇申します」

吉平はこう云って頭をさげてから身を起した。横山も後からそれを送って出た。そして、吉平が門口に出ようとすると、五右衛門と同役の清太夫の二人は、そっとその後をつけて往った。

吉平は門を出ると棺屋横町を南へ往った。其処には竜見長庵と云う医者の邸があって大きな椎の木があった。吉平の姿はその椎の木の下で見えなくなってしまった。