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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

「あ、あ、魚軒がとれる、これはありがたい、では、ね、姐さん、その魚軒とフライをもらおうか」

「承知いたしました、御酒も召しあがりまして」

「そうだ、その御酒が第一の目的と云うところだ、これから復た暫らく飲めないことになるからね、船が出るまでには心遺りのないように、うんと本場の酒を飲んで置こうと云うところだ、好い奴を持っといで」

謙作は台湾の陽に焦げた肉の締った隻頬に笑をちょと見せた。

「承知いたしました」

女も口元に笑いを見せてから引返して往った。謙作は宜い気もちになって衣兜から敷島の袋を出し、その中から一本抜いて火を点け、それをゆっくりと吸いながら、やるともなしにぼろぼろの洋服の男に眼をやった。

洋服の男は盃を口のふちに持って往ったままで、とろりとした眼をしてなにか考えている容であった。その洋服の男の前のテーブルにも街路の方を背にして、鳥打帽を冠た筒袖の店員のような壮い男がナイフとホークを動かしていた。そこには女給の一人が傍の椅子に腰をかけて、その男と何か話していた。

謙作はふと女のことを思いだしたので右の方に眼をやった。女の束髪の櫛からはやはり蛇の眼のようなちろちろした光が見えていたが、何か物を飲んでいるのかすこし体を反して、右の手をちょと曲げていた。