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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

謙作は不思議に思ってその方を見た。そこには洋館の入口の扉を半ば開けて島田髷の女が半身を露わしていた。それは昨夜飲み物を搬んで来た女であった。謙作は昨夜の家の前に帰っていることに気が注いた。

「あ、君か」

謙作はしかたがないので二階へあがって往った。室の中はもう燈が点いていた。彼の女は室の中のテーブルに寄りかかって、彼の入って来るのを笑って見ていた。

「汽船会社へいらしって」

謙作は判らなかったとは云えないので、曖昧な返事をしながらその前へ往った。

「お疲れになったのでしょう、おかけなさいまし、お腹も空いたのでしょう、すぐ何か持ってまいります」

女は始終笑顔をしていたが、なんだか皮肉に見えるところがあった。謙作は煙草を飲もうと思って衣兜に手をやった。煙草は無くなって内には敷島の袋ばかり残っていた。彼はしかたなしにじっとしていた。

「今まで会社にいらしったのですか」

「いや、そうでもないのです、あっちこっち歩いていたのですから」

謙作はその日のことが奇怪でたまらなかった。彼は海岸も旅館も見つからないと云うのは、己がどうかしているためかも判らないと思った。彼は恐ろしかった。