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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

どこの庭にも蒼白い月の光があった。風も少し吹いていた。その風が庭の落葉樹の葉を落した。

「あれ、なに」

と、女の子が耳を傾けて心配そうに聞くと、母親は強いて平気な顔をした。

「なんでもないよ」

「だって、がさがさと音がしたじゃないの」

小供はまだ不安な顔をする。

「あれは風ですよ」と、云うような問答をやっている家もあった。

夜はもう亥時に近かった。と、けたたましい女の悲鳴が聞えて来た。

「板女が来た、板女が来た、何人か来て……」

「板女……板女……」

「板女……」

女の声は板女を数回繰り返した。恐怖が事実となって顕れた。そこここに雨戸を開ける音がしはじめた。おっとり刀で飛び出す者もあった。一家の主人も部屋住の若侍も、その悲鳴を聞いた者は月の下を駈けつけた。

十余人の者は某足軽の家に集まったが、そこには盗賊の入った形跡はなかった。小柄なそこの妻女は玄関の口に立って知己の人と話していた。

「私の家じゃありませんよ、裏口の方で板女が来たと云うから、私は裏隣の御新造さんじゃないかと思うて、飛び出てみましたが、何人もいないのですよ、不思議じゃありませんか」

その話を漏れ聞いて集まって来たものは首をかしげた。