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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

定七は驚いて広巳をつかまえようとしたが及ばなかった。広巳はそのまま庭へ飛びおりて庭の上へつらつらと眼をやった。楓の老木の近くにある高野槇の根方に、あの蛇がいて鎌首をもったてながら針のような赤い舌を出していた。

「くそ」

広巳の眼は脱沓の方へ往った。そこに庭下駄が一足揃えて置いてあった。広巳はそれを見ると脱沓の方へ往って、その下駄の片方を執るなり、蛇の処へ走って往っていきなり撲りつけた。

「あ」

それは定七の叫びであった。広巳は定七の声を聞くと一層力を得たように続けて蛇を撲った。蛇は紐を解いたようにそのままぐったりとなってしまった。

「くそ」

広巳は手にしていた下駄を投げ棄てるなり、その蛇の胴体をむずと掴んで客座敷の縁側の方へ走って往った。

「あれ、あ、若旦那」

定七ははらはらしていた。広巳の耳にはもう定七の声などは入らなかった。広巳は縁側へ駈けあがるなり、客座敷の障子をがらりと開けた。

室の中ではあの岡本と広栄がさしむかっていたが、魔鳥のように駈けこんで来た広巳に驚かされてきょときょとした。広巳は岡本をめがけて手にした蛇を投げつけた。

「これでも啖え」

蛇は岡本の顔へ当って畳の上へ落ちた。