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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

新吉はふと山の中のベンチのことを思いだした。こんな晩には山の中が好いかも判らないと思って池の方へ眼をやった。藤棚のさがった小さな橋の欄干がすぐそこにあった。新吉はその方へ折れた。

藤棚には藤の花房がさがって、その花が微暗い燈を受けて白く見えていた。両側の欄干には二三人ずつの人が背をもたせるようにして立ちながら、鼻の端を通って往く人の顔を透していた。新吉はその前を通って、一またぎぐらいしか無いその橋を渡り終り、すこし右に折れ曲って右側の茶店の傍へ往った。壮い女学生風の女が何か考えてでもいるように前屈みになって歩いていた。新吉の眼はそれに往った。

女はこっちへ白い面長な顔を見せた。銘仙かなにかであろう、紫色の模様のある羽織を着て右の手に蝙蝠傘を持っていた。足にはうすい下駄を履いていた。その足つきは力のない足つきであった。新吉はこの女をちょと面白い女だと思った。彼は女に悟られないようにそろそろと足を遅くした。

女はまた前屈みになって力のない足つきで歩いた。新吉は女から一間ばかり離れて夕飯後の腹こなしに公園を一廻りしている人のような容をして歩いた。七八人の人の群がむこうから来たので女の姿はちょとその陰になった。