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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

「それでは別院の下へ往くとしょうか」

舟乗りとなっている男はそう云って舟の方向をぐるりとかえ、別院の方へ向けた。

「この世智辛い世の中に、皆、いい気なものじゃ」

右隣の舟から笑う声が舟乗りとなっている男の耳にはいった。

「隣の舟で笑っている」

流れに随って下る舟は早かった。舟はみるみる別院の下へ往った。そこは断崖になって樹木の根が処どころに垂れていた。舟はその断崖の下へ流れかかるように寄って往った。

「磧なら焼鮎ができるが、ここじゃ、膾より他にはできない、膾でやろう」

「それでは料理をしようか」

舟の火は何時の間にか消えてしまった。それと共に舟の中もしんとなったが、しばらくして小さな声が起った。

「これで門出の杯はすんだ、出かけよう、油断して痴漢を討もらすな」

それは舟乗りとなっていた男の声であった。舟の中ではもそもそと物の気配がしはじめたが、やがてひっそりとなった。

稲葉山の城主斎藤義竜は、法華寺の別院で涼をとっていた。小肥満のした体を脇息にもたして、わざと燈を遠くの方へ置きながら、二人の少女に後から煽がし、庭の樹木の間から見える鵜飼の火を見るともなしに見ているところであった。