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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
一室しかない庵の中には、三十前後の小柄な男が書見していたが、人の跫音を聞いて顔をあげた。
「悪僧の訴人によって、私を召捕りにまいったと見えるな、いかなこと、いかなこと、その方どもの手にかかる者ではない」
小柄な男は柔和な顔に微笑を含んで、太郎左衛門の顔を見て、
「まあ騒がずに聞くがよい、今日は天下に人も無いように宗門を迫害しておるが、明日になれば、大久保忠隣をはじめ、伊賀守も、また、その方も地獄の苦しみを受けねばならぬぞよ」
「それ、その売僧を逃がすな」
太郎左衛門は鉄扇を揮ってさしずした。捕卒は競うて庵の中へ躍り込んだ。
小柄な男はすっと立って右の指で十字を切った。その一文字に結んだ口元に冒されぬところがあるのを太郎左衛門は見た。
「天国、天国」
小柄な男の姿は煙のように消えてしまった。
「や、や」
「や」
捕卒は互に声をかけ合いながら庵の中を駈け廻ったが、眼にとまる者もなかった。
太郎左衛門は妖僧をとり逃がしたことなどが原因となって、次第に主人の前が不首尾になったので、その秋生国の遠州浜松在に隠遁して、半士半農の生活を送ることとなったが、その翌年の正月になって主家は改易になってしまった。