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にっき

日記

宮本 百合子

06 一九二〇年(大正九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,923 字 · 46 页

青空文庫

俄に気違いのような待遠しさが自分の胸に湧いた。朝八時頃かえると云うことが分っても、自分は起きて、皆に顔を見られながら、待って居ると云うに堪えないで床に居た。七時頃から起きては居ても。そして、待ち遠しがって居ると、思いがけずに開けて置いた戸からAの姿が見えた。彼は単純に私が眠くて床に居ると思ったのだろう。然し自分は、彼の姿を見た瞬間、にわかに今まで自分の内に在った自分の魂丈が火玉のように成って彼の胸にとびついたような心持に成った。激しい、苦しい悦びで喉がつまった。Oh! dear Grandpa! と囁いた声を彼はきいたか? 開けた戸をしめてこっちへいらっしゃいと云うのを漸々声えるような声で云った。そして、彼に抱かれた。が、その瞬間、何か彼女の心の中で「そうじゃあなかった」と云う失望が響いた。彼の旅行から引続いてある matter of fact の気分が、自分の中に亢進して居た憧れや熱情やを不調和に感じたのである。

彼女の心は知らないうちにすねて、意地が悪く成った。

「ねえ貴方、怒らずにきいて下さること? 私ね、貴方を真個に愛して居ると思って居るし、貴方が私を愛して居て下さるのを信じて居ります。