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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
と、田舎言葉まるだしの、日ごろのアグリとも思えぬ荒々しい言葉で、自分のそばに欺した対手が坐ってでもいるかのように着ている布団を叩き続けて、自分の生んだ子の顔も知らずに死んでいったというアグリを、いねは十人の中で一番可哀そうに思えた。八重にしろ高子にしろ、いやなことをいやといい通す強さがあったが、アグリはそれを手紙でいってさえ来なかった。子供の時よく里親が訪ねてきて、もう大きくなったアグリを抱いたりさすったりして話しかけても、アグリはただ困ったような、恥かしいような顔つきをするだけで一言も答えなかった。そして貰った菓子袋をやはり恥かしげな顔つきでひろげ、大勢の姉妹たちに一人一人分けてやり、結局自分の当り分が一つもなくなってしくしく泣いていたりしていた。いねはそんなことまで思いだし、あの気の弱さで夫にも仕えていたのだろうと思い至ると、臨終の床で打った対手はその極道の夫や、アグリの嫁ぐ前からあったらしいというその陰の女ではなく、うっとうしい胸の中を開いてやらなかった自分であるような気がして悔まれるのであった。もうもう後の八重や高子は好きにささにゃいかんと重吉と二人でいい合った。