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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
のように覚った。深い思いやりで父親の枕もとに坐っていると、いねの発病当時を皆目知らない実枝は、母親のあの不自由さを自然のもののようにさえ思って過してきたことに今さらのように気がついた。不思議な回り合せは、今また重吉をいねと同じ病気に斃し、いねと同じ経路を辿らせているらしく、いねとちがって言葉の不自由なことや、年をとっていることは、いねの場合よりも病気の速度を早めるのか、その弱り方は目に見えるのであった。この病気特有の喜怒哀楽の感情が交錯して、持前の重吉らしくもない癇癪に青筋を立て、自分の言葉の通じないことよりも、実枝がそれを聞き分けてくれないことの方に腹を立てて、もの凄い形相で立ち上ることもあった。こんなことさえ分らないのかといわぬばかりに実枝を睨みつけ、びっこを引きながら自分で用を足そうとすることが、日めくりが昨日のままになっているのをはぎとることであったり、物置から鉤箱を出してくることであったり、時には庭の梅の木の枝ぶりを撓めることであったりした。ようやくの思いでそれが実枝に通じると、今度は子供のような顔になって笑い、満足げにうなずく。重吉の枕元にはいろんなものが並んでいた。