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ほんじょりょうごく

本所両国

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页

青空文庫

僕も本所に住んでいたとすれば、恐らくは矢張りこの界隈に火事を避けていたことであろう。従って又僕は勿論、僕の家族もかれ等のように非業の最期を遂げていたかも知れない。僕は高い褐色の本所会館を眺めながら、こんなことをO君と話し合ったりした。

「しかし両国橋を渡った人は大抵助かっていたのでしょう?」

「両国橋を渡った人はね。……それでも元町通りには高圧線の落ちたのに触れて死んだ人もあったということですよ。」

「兎に角東京中でも被服廠跡程大勢焼け死んだところはなかったのでしょう。」

こういう種々の悲劇のあったのはいずれも昔の「お竹倉」の跡である。僕の知っていた頃の「お竹倉」は大体「御維新」前と変らなかったものの、もう総武鉄道会社の敷地の中に加えられていた。僕はこの鉄道会社の社長の次男の友達だったから、みだりに人を入れなかった「お竹倉」の中へも遊びに行った。そこは前にもいったように雑木林や竹やぶのある、町中には珍しい野原だったのみならず古い橋のかかった掘割さえ大川に通じていた。僕は時々空気銃を肩にし、その竹やぶや雑木林の中に半日を暮したものである。どぶ板の上に育った僕に自然の美しさを教えたものは何よりも先に「お竹倉」