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ほんじょりょうごく

本所両国

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页

青空文庫

僕はその葬式の帰りに確か父に「御維新」前の本所の話をしてもらった。父は往来の左右を見ながら「昔はここいらは原ばかりだった」とか「何とか様の裏の田には鶴が下りたものだ」とか話していた。しかしそれ等の話の中でも最も僕を動かしたものは「御維新」前には行き倒れとか首くくりとかの死骸を早桶に入れその又早桶を葭簀に包んだ上、白張りの提灯を一本立てて原の中に据えて置くという話だった。僕は草原の中に立った白張りの提灯を想像し、何か気味の悪い美しさを感じた。しかもかれこれ真夜中になると、その早桶のおのずからごろりところげるというに至っては――明治時代の本所はたとえ草原には乏しかったにせよ、恐らくはまだこのあたりに多少いわゆる「御朱引外」の面かげをとどめていたのであろう。しかし今はどこを見ても、ただ電柱やバラックの押し合いへし合いしているだけである。僕は泥のはねかかったタクシーの窓越しに往来を見ながら、金銭を武器にする修羅界の空気を憂欝に感じるばかりだった。

僕等は「橋本」の前で円タクを下り、水のどす黒い掘割伝いに亀戸の天神様に行って見ることにした。名高い柳島の「橋本」