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ほんじょりょうごく

本所両国

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页

青空文庫

がそんなことはどうでもよい。それよりも僕を驚かしたのは膃肭獣供養塔というものの立っていたことである。僕はぼんやりこの石碑を見上げ、何かその奥の鼠小僧の墓に同情しない訳には行かなかった。

鼠小僧治郎太夫の墓は建札も示している通り、震災の火事にもほろびなかった。赤い提灯や蝋燭や教覚速善居士の額も大体昔の通りである。尤も今は墓の石を欠かれない用心のしてあるばかりではない。墓の前の柱にちゃんと「御用のおかたはお守り石をさし上げます」と書いた、小さい紙札もはりつけてある。僕等はこの墓を後にし、今度は又墓地の奥に――国技館の後ろにある京伝の墓を尋ねて行った。

この墓地も僕にはなつかしかった。僕は僕の友だちと一しょに度たびいたずらに石塔を倒し、寺男や坊さんに追いかけられたものである。尤も昔は樹木も茂り、一口に墓地というよりも卵塔場という気のしたものだった。が、今は墓石は勿論、墓をめぐった鉄柵にもすさまじい火の痕は残っている。僕は「水子塚」の前を曲り、京伝の墓の前へたどり着いた。京伝の墓も京山の墓と一しょにやはり昔に変っていない。ただそれ等の墓の前に柿か何かの若木が一本、ひょろりと枝をのばしたまま、若葉を開いているのは哀れだった。