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ほんじょりょうごく
本所両国
「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页
僕等は回向院の表門を出、これもバラックになった坊主軍鶏を見ながら、一つ目の橋へ歩いて行った。僕の記憶を信ずるとすれば、この一つ目の橋のあたりは大正時代にも幾分か広重らしい画趣を持っていたものである。しかしもう今日ではどこにもそんな景色は残っていない。僕等は無残にもひろげられた跡を向う両国へ引き返しながら、偶然「泰ちゃん」の家の前を通りかかった。
「泰ちゃん」は下駄屋の息子である。僕は僕の小学時代にも作文は多少上手だった。が、僕の作文は――というよりも僕等の作文は、大抵いわゆる美文だった。「富士の峰白くかりがね池の面に下り、空仰げば月うるわしく、余が影法師黒し。」――これは僕の作文ではない、二、三年前に故人になった僕の小学時代の友だちの一人――清水昌彦君の作品である。「泰ちゃん」はこういう作文の中にひとり教科書のにおいのない、生き/\とした口語文を作った。それは何でも「虹」という作文の題の出た時である。僕は内心僕の作文の一番になることを信じていた。が、先生の一番にしたのは「泰ちゃん」――下駄屋「伊勢甚」の息子木村泰助君の作文だった。「泰ちゃん」は先生の命令を受け、かれ自身の作文を朗読した。