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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页
たしかに周防の話しは重大であった。
それは、老中の酒井雅楽頭(忠清)と、伊達兵部少輔宗勝とが結託のうえ、仙台六十万石を横領しようとして、その計画を現にすすめている、というのであった。
「不可能なことだ」と安芸が云った、「そんなことが実際にできるわけはない」
「しかしその第一はもう事実になりました」
「第一とは」
「殿の御逼塞です」
安芸はぎらっと周防を見た。「――御逼塞が、その謀計の一つだというのか」
「第二は跡式の件です」と周防は云った、「御存じのようにいま御継嗣について、入札がおこなわれることになっておりますが、その結果によっては、六十万石を二つに割り、三十万石を一ノ関さま、十万石を白石(片倉小十郎)どの、残余はしかじかに分配すると、数度にわたって談合があったというのです」
「久世侯が申されたのだな」
「しかも、所領分割のことは、すでにその人々にも通じているかもしれぬ、白石どのなどは十万石ということであるから、さもあるまいが特に注意するように、とのことでした」
安芸の躯が動かなくなった。甲斐は沈んだ眼つきで、しかし殆んど無感動に、黙って扇子を使っていた。