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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

機織りに長けた女も、一人や二人は、若人の中に居た。此女らの動かして見せる筬や梭の扱い方を、姫はすぐに会得した。機に上って日ねもす、時には終夜織って見るけれど、蓮の糸は、すぐに円になったり、断れたりした。其でも、倦まずにさえ織って居れば、何時か織りあがるもの、と信じている様に、脇目からは見えた。

乳母は、人に見せた事のない憂わしげな顔を、此頃よくしている。

何しろ、唐土でも、天竺から渡った物より手に入らぬ、という藕糸織りを遊ばそう、と言うのじゃもののう。

話相手にもしなかった若い者たちに、時々うっかりと、こんな事を、言う様になった。

こう糸が無駄になっては。

今の間にどしどし績んで置かいでは――。

乳母の語に、若人たちは又、広々として野や田の面におり立つことを思うて、心がさわだった。そうして、女たちの刈りとった蓮積み車が、廬に戻って来ると、何よりも先に、田居への降り道に見た、当麻の邑の騒ぎの噂である。

郎女様のお従兄恵美の若子さまのお母様も、当麻真人のお出じゃげな――。

恵美の御館の叔父君の世界、見るような世になった。

兄御を、帥の殿に落しておいて、御自身はのり越して、内相の、大師の、とおなりのぼりの御心持ちは、どうあろうのう――。