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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

「巌岩の上に生ふる馬酔木を」と聞えたので、ふと、冬が過ぎて、春も闌け初めた頃だと知った。おれの骸が、もう半分融け出した時分だった。そのあと、「たをらめど……見すべき君がありと言はなくに」。そう言われたので、はっきりもう、死んだ人間になった、と感じたのだ。……其時、手で、今してる様にさわって見たら、驚いたことに、おれのからだは、著こんだ著物の下で、のように、ぺしゃんこになって居た――。

臂が動き出した。片手は、まっくらな空をさした。そうして、今一方は、そのまま、岩牀の上を掻き捜って居る。

うつそみの人なる我や。明日よりは、二上山を愛兄弟と思はむ

誄歌が聞えて来たのだ。姉御があきらめないで、も一つつぎ足して、歌ってくれたのだ。其で知ったのは、おれの墓と言うものが、二上山の上にある、と言うことだ。

よい姉御だった。併し、其歌の後で、又おれは、何もわからぬものになってしまった。

其から、どれほどたったのかなあ。どうもよっぽど、長い間だった気がする。伊勢の巫女様、尊い姉御が来てくれたのは、居睡りの夢を醒された感じだった。其に比べると、今度は深い睡りの後見たいな気がする。