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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

そう言う家々では、実例として恐しい証拠を挙げた。卅年も昔、――天平八年厳命が降って、何事も命令のはかばかしく行われぬのは、朝臣が先って行わぬからである。汝等進んで、石城を毀って、新京の時世装に叶うた家作りに改めよと、仰せ下された。藤氏四流の如き、今に旧態を易えざるは、最其位に在るを顧みざるものぞ、とお咎めが降った。此時一度、凡、石城はとり毀たれたのである。ところが、其と時を同じくして、疱瘡がはやり出した。越えて翌年、益々盛んになって、四月北家を手初めに、京家・南家と、主人から、まず此時疫に亡くなって、八月にはとうとう、式家の宇合卿まで仆れた。家に、防ぐ筈の石城が失せたからだと、天下中の人が騒いだ。其でまた、とり壊した家も、ぼつぼつ旧に戻したりしたことであった。

こんなすさまじい事も、あって過ぎた夢だ。けれどもまだ、まざまざと人の心に焼きついて離れぬ、現の恐しさであった。

其は其として、昔から家の娘を守った邑々も、段々えたいの知れぬ村の風に感染けて、忍び夫の手に任せ傍題にしようとしている。そうした求婚の風を伝えなかった氏々の間では、此は、忍び難い流行であった。