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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
大和国にも断って、寺の奴ばらを追い払って貰うとまで、いきまいた。大師を頭に、横佩家に深い筋合いのある貴族たちの名をあげて、其方々からも、何分の御吟味を願わずには置かぬ、と凄い顔をして、住侶たちを脅かした。郎女は、貴族の姫で入らせられようが、寺の浄域を穢し、結界まで破られたからは、直にお還りになるようには計われぬ。寺の四至の境に在る所で、長期の物忌みして、その贖いはして貰わねばならぬ、と寺方も、言い分はひっこめなかった。
理分に非分にも、これまで、南家の権勢でつき通してきた家長老等にも、寺方の扱いと言うものの、世間どおりにはいかぬ事が訣って居た。乳母に相談かけても、一代そう言う世事に与った事のない此人は、そんな問題には、詮ない唯の女性に過ぎなかった。
先刻からまだ立ち去らずに居た当麻語部の嫗が、口を出した。
其は、寺方が、理分でおざるがや。お随いなされねばならぬ。
其を聞くと、身狭乳母は、激しく、田舎語部の老女を叱りつけた。男たちに言いつけて、畳にしがみつき、柱にかき縋る古婆を掴み出させた。そうした威高さは、さすがに自ら備っていた。
何事も、この身などの考えではきめられぬ。