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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
帥の殿に承ろうにも、国遠し。まず姑し、郎女様のお心による外はないもの、と思いまする。
其より外には、方もつかなかった。奈良の御館の人々と言っても、多くは、此人たちの意見を聴いてする人々である。よい思案を、考えつきそうなものも居ない。難波へは、直様、使いを立てることにして、とにもかくにも、当座は、姫の考えに任せよう、と言うことになった。
郎女様。如何お考え遊ばしまする。おして、奈良へ還れぬでも御座りませぬ。尤、寺方でも、候人や、奴隷の人数を揃えて、妨げましょう。併し、御館のお勢いには、何程の事でも御座りませぬ。では御座りまするが、お前さまのお考えを承らずには、何とも計いかねまする。御思案お洩し遊ばされ。
謂わば、難題である。あて人の娘御に、出来よう筈のない返答である。乳母も、子古も、凡は無駄な伺いだ、と思っては居た。ところが、郎女の答えは、木魂返しの様に、躊躇うことなしにあった。其上、此ほどはっきりとした答えはない、と思われる位、凛としていた。其が、すべての者の不満を圧倒した。
姫の咎は、姫が贖う。此寺、此二上山の下に居て、身の償い、心の償いした、と姫が得心するまでは、還るものとは思やるな。