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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

けれども之は不成功に終りました。之は不成功に終るのが当然かも知れませぬ。若き女は他人である異性に恋した以上、肉身たる兄の忠告を容れるものではないのですから。

こうやって私は遠くから心配しながら小夜子のことを考えていたのでした。

春一に捨てられると知った時、彼女が如何なる手紙を彼に出したか、私の与り知る所ではありませぬ。けれども彼女が春一を脅やかしたからというて、どうして彼女が春一に純情を捧げなかったといい得ますか。更に腹の子について語ったとしても、どうしてそれが不自然でしょう。

どうしてそれが金をゆすることになるのでしょう。

彼女は、明るい幸福な彼女、又は幸福な人妻となっている彼女を恐らくは想像しているのであろう所の、故郷の貧しい親のことを思ったに違いありませぬ。そうして、腹に子さえ儲けられてしかもその男に捨てられ、今やたった一人でそれを育てて行かねばならぬ自分を省みた時、その悲惨極まる自身の淋しい姿を鏡に写した時、どんな苦しみを味わったことでしょうか。(おお妹よ、何故お前は一言でもそのことを兄にいってはくれなかったか。この兄はそんなにまでお前に頼りにならぬと思われたのか?)